Thursday, June 4, 2009

日米同盟の正体



著者は外務省で駐ウズベキスタン大使、国際情報局長、駐イラン大使を歴任後、2002~2009年に防衛大学校教授として危機管理を講じた経歴を持つ。私は不勉強なもので読んでいないが、著作『日本外交 現場からの証言』が山本七平賞を受賞しているそうである*1

しかし、そんな著者情報は大して重要ではない。この本はとても良いし、その良さは立場から得たインサイダーな情報に頼ったものではないからだ。現時点で日米関係について学び・考えるために必須の数冊を挙げるとして、この本が入らないなら間違いだろう。政治家やメディア関係者に限っては、最低限この本の議論水準を踏まえて仕事をして欲しいと切に願う。

先日のエントリの話題(の一部)であったミサイル防衛についても言及があったので、議論の一端を紹介する意味で引用したい。著者は、ウィリアム・ペリー(元米国国防長官)の論文に依拠しながら、言う(238-239頁)。


 米国は潜在的脅威国とかなり距離がある。迎撃の準備体制を整える時間がある。この米国ですら、ペリーはミサイル防衛の実効性に、疑問を持っている。日本は相手がミサイルを撃って数分で反応しなければならない。ある米国関係者は、撃ち落とせるのはまだミサイルが最高速度に至っていない最初の二分間が勝負と言う。その際は現場兵士の瞬時の判断に依存する。ミサイルはまだ相手国領空内である。

 さらに核攻撃を行おうとする際には、ミサイル、航空機等様々な手段を使って攻撃をかけてくる。これらの敵の核攻撃に対し防御を築くのは技術的にほぼ不可能であろう。

 ミサイル防衛がマジノラインくらいの信頼性を得る可能性はない。立派なマジノラインを築きましたといっても、迂回攻撃があれば何の意味もない。日本がミサイル防衛に巨額の資金を投入することは、間違った安全保障概念に道を開き、防御の優先順位の付け方を間違う可能性が高い。


「では先制攻撃だ」と切り返す向きもあろうが、日本はそれを有効に遂行する能力を持っていないとして、敵地攻撃論は引用箇所の直前で既に退けられている。そして、ミサイル防衛や敵地攻撃論は、北朝鮮だけを見て、その他の有力な潜在的脅威としての中国やロシアを見ない議論である、と批判されている。

撃たれたら防げず、撃たれる前に潰すことも不可能なら、あとは撃たせないようにするしかないわけである。なるほどその目的をどのようにして実現するかを考えるのが、戦略的な安全保障というものなのだろう。私もそう思う。


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