Friday, December 27, 2013

2013年の政治思想


大仰なタイトルに見えますが,昨年の試みを継続して,政治思想史・政治理論分野での収穫を簡単に振り返ってみるというだけのことです.内容に踏み込んだコメントを付す力量はありませんので,あくまで表層的なまとめに徹します.


さて,昨年同様に教科書・概説書から入るなら,まずは宇野重規『西洋政治思想史』有斐閣(有斐閣アルマ Basic)の刊行が目を引きます.西洋政治思想の通史としては川出/山岡『西洋政治思想史』が昨年出たばかりですが,単著の通史はしばらく現れていませんでした.やはり昨年に川崎/杉田 (編) 『現代政治理論』新版が出ていますので,これでテキストはかなり充実を見たはずです(残るは日本/東洋政治思想史でしょうか).なお,同著者による宇野重規『民主主義のつくり方』筑摩書房(筑摩選書 76)は,現代民主主義の可能性をプラグマティズムに見出そうとする卓抜なエッセイです.

刊行中の古賀敬太 (編) 『政治概念の歴史的展開』晃洋書房は,5巻6巻が出ました.さらに続刊が予定されているようなので,来年初頭から刊行が開始される岩波講座「政治哲学」全6巻と併せて,この分野の基礎がさらに厚みを増すことになりそうです.政治を根本から思考する上では,杉田敦『政治的思考』岩波書店(岩波新書 新赤版1402)も長く読まれるでしょう.

同書と同じく年頭に刊行されたものとしては,鈴木健『なめらかな社会とその敵――PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論』勁草書房や,市野川容孝/宇城輝人 (編) 『社会的なもののために』ナカニシヤ出版が話題になりました.いずれも以前から続くそれぞれのトレンド(「一般意志2.0」,「社会(的なもの)」)を継ぐものでしょうが,年後半になって後者と関心が通底する重田園江『社会契約論――ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ』筑摩書房(ちくま新書 1039)が出版されたことは,トレンドのさらなる持続を示すものでしょうか.

入門書に戻ると,仲正昌樹 (編) 『政治思想の知恵――マキャベリからサンデルまで』法律文化社が若手中心の書き手で構成されており,新鮮かもしれません.同編者による仲正昌樹『カール・シュミット入門講義』作品社は,いつもながらの簡便な整理です.関連で蔭山宏『崩壊の経験――現代ドイツ政治思想講義』慶應義塾大学出版会は,より広く19~20世紀のドイツ政治思想を扱っています.また,権左武志『ヘーゲルとその時代』岩波書店(岩波新書 新赤版1454)は硬質なヘーゲル入門(以上?)として必携です.

昨年は理論系の研究書を多く紹介したように思いますが,今年は新書・選書レベルも含めて,思想史分野での収穫が豊富だったのではないでしょうか.サントリー学芸賞も受賞した将棋面貴巳『ヨーロッパ政治思想の誕生』名古屋大学出版会に,木村俊道『文明と教養の〈政治〉――近代デモクラシー以前の政治思想』講談社(講談社選書メチエ 561)鹿子生浩輝『征服と自由――マキァヴェッリの政治思想とルネサンス・フィレンツェ』風行社の三冊は,中世から初期近代を知る上で必読のことと思います.翻訳としては,エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ『自発的隷従論』山上浩嗣 (訳), 西谷修 (監修), 筑摩書房(ちくま学芸文庫 ラ-11-1)が目を引きます.田中秀夫『近代社会とは何か――ケンブリッジ学派とスコットランド啓蒙』京都大学学術出版会田中秀夫『啓蒙の射程と思想家の旅』未来社は,碩学による研究集成.関連する翻訳として,J. G. A. ポーコック『島々の発見――「新しいブリテン史」 と政治思想』犬塚元 (監訳), 名古屋大学出版会も出版されました.

一方,若手による川上洋平『ジョゼフ・ド・メーストルの思想世界――革命・戦争・主権に対するメタポリティークの実践の軌跡』創文社は貴重なメーストル研究.同じく小畑俊太郎『ベンサムとイングランド国制――国家・教会・世論』慶應義塾大学出版会は,ベンサム政治思想の理解に欠かせなくなりそうで,フィリップ・スコフィールド『ベンサム――功利主義入門』川名雄一郎/小畑俊太郎 (訳), 慶應義塾大学出版会と併せて読みたいところ.イギリス関連では平石耕『グレアム・ウォーラスの思想世界――来たるべき共同体論の構想』未来社のほか,論文集として佐藤正志/ポール・ケリー (編) 『多元主義と多文化主義の間――現代イギリス政治思想研究』早稲田大学出版部が,翻訳としてマイケル・オークショット『政治における合理主義』増補版, 嶋津格/森村進 (訳), 勁草書房マイケル・オークショット『歴史について、およびその他のエッセイ』添谷育志/中金聡 (訳), 風行社が目立つところでしょうか.

アレント研究では小山花子『観察の政治思想――アーレントと判断力』 東信堂が,フーコー研究では箱田徹『フーコーの闘争――〈統治する主体〉の誕生』慶應義塾大学出版会が出ました.特に後者は,後期フーコー研究の現時点での到達点として注目されます.神島裕子『マーサ・ヌスバウム――人間性涵養の哲学』中央公論新社(中公選書 17)は,現代アメリカの著名な哲学者に関する日本初のまとまった紹介です.

日本政治思想では,河野有理『田口卯吉の夢』慶應義塾大学出版会尾原宏之『軍事と公論――明治元老院の政治思想』慶應義塾大学出版会大田英昭『日本社会民主主義の形成――片山潜とその時代』日本評論社などが主だった研究書でしょうか.ほかに目立つところでは,堀真清 (編) 『原典でよむ日本デモクラシー論集』岩波書店(岩波現代全書 6)三谷太一郎『大正デモクラシー論――吉野作造の時代』3版, 東京大学出版会三谷博『愛国・革命・民主――日本史から世界を考える』筑摩書房(筑摩選書 72)苅部直『秩序の夢――政治思想論集』筑摩書房都築勉『丸山眞男への道案内』吉田書店など.

もちろん理論系の著作も出ています.主権,代表,ポピュリズムなどを扱った鵜飼健史『人民主権について』法政大学出版局(サピエンティア 31)は筆頭でしょう.デモクラシー関係では,ジョン・ギャスティル/ピーター・レヴィーン (編) 『熟議民主主義ハンドブック』津富宏/井上弘貴/木村正人 (監訳), 現代人文社や,ジョン・キーン『デモクラシーの生と死』上下巻, 森本醇 (訳), みすず書房が翻訳されました.また昨年の『コミュニタリアニズムのフロンティア』に続いて,同編者による菊池理夫/小林正弥 (編) 『コミュニタリアニズムの世界』勁草書房が刊行.リバタリアニズムの側では,森村進『リバタリアンはこう考える――法哲学論集』信山社(学術選書 109)がまとめられています.ほかに,スーザン・M. オーキン『正義・ジェンダー・家族』山根純佳/内藤準/久保田裕之 (訳), 岩波書店や,ナンシー・フレイザー『正義の秤――グローバル化する世界で政治空間を再想像すること』向山恭一 (訳), 法政大学出版局が翻訳.フランシス・フクヤマ『政治の起源――人類以前からフランス革命まで』会田弘継 (訳), 講談社上巻が出版されました.

国際政治思想では,新書ながら松元雅和『平和主義とは何か――政治哲学で考える戦争と平和』中央公論新社(中公新書 2207)をまず挙げるべきでしょう.平和主義についての詳細な議論整理であり,このテーマを考える上では欠かせない本になるはずです.研究書としては大原俊一郎『ドイツ正統史学の国際政治思想――見失われた欧州国際秩序論の本流』ミネルヴァ書房(MINERVA 人文・社会科学叢書 189)清水耕介『寛容と暴力――国際関係における自由主義』ナカニシヤ出版押村高『国家のパラドクス――ナショナルなものの再考』法政大学出版局中山俊宏『アメリカン・イデオロギー――保守主義運動と政治的分断』勁草書房など.翻訳ではモーゲンソー『国際政治――権力と平和』, 原彬久 (監訳), 岩波書店が刊行中です.


以上,ほぼ単なる羅列になりました.今回は翻訳も含めてみましたが,やはり網羅的にやっても際限がなくなるだけなので,来年以降はまたやり方を考えたいと思います.

それでは,よいお年を.


※追記(12/28): 12月に出版された2点を付け加えておきます.安達智史『リベラル・ナショナリズムと多文化主義――イギリスの社会統合とムスリム』勁草書房は,近年のトレンドの一つであるリベラル・ナショナリズム論を具体的な政策レベルで検討したもの.レオ・シュトラウス『自然権と歴史』塚崎智/石崎嘉彦 (訳), 筑摩書房(ちくま学芸文庫 シ-33-1)は話題の翻訳です.

Wednesday, December 18, 2013

自主ゼミ #2013-19



  • 議論内容: 
    • ポピュリズムと全体主義の違いについて.
    • 要求の多元化による政治的争点の不明瞭化,について.
    • 決して到来することのない未来,について.

  • 次回予定: 今年度は終了.来年度は一旦お休み.

Wednesday, December 11, 2013

自主ゼミ #2013-18



  • 議論内容: 
    • 普遍主義と原理主義の関係について.
    • 普遍性の特殊性による「汚染」について.
    • 政治的なるものと現実政治の共犯関係(国家論・デモクラシー論)について.

  • 次回予定: 同書, 4-終章.

Wednesday, December 4, 2013

自主ゼミ #2013-17



  • 議論内容: 
    • 著者の「リベラル」理解の妥当性(「共生」と自律の関係)について.
    • ナショナルな単位を特権化することの妥当性(多言語状況や生得文化をはじめとするローカルな文脈との関係)について.
    • 政治的コミュニケーションの捉え方(その不可避性・予測不可能性)について.
    • 等々.

  • 次回予定: 鵜飼健史 [2013] 『人民主権について』法政大学出版局, 序-3章.

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