Tuesday, March 18, 2014

掲載告知: 「関係と制度――規範の存立において特別の地位を占めうる事実についての政治理論的探究」



  • 松尾隆佑 [2014. 3] 「関係と制度――規範の存立において特別の地位を占めうる事実についての政治理論的探究」『法政大学 大学院紀要』72: 49-73.


拙論が掲載された紀要が刊行されました.

今回の論文は,これまで同じく紀要に掲載してきた「権力と自由」,「理性・情念・利害」に続く概念論で,利害関係(stake)概念研究の「三部作」の締めくくりにあたります.

これらはいずれも2008年提出の修士論文の一部を再利用したものですが,特に今回の関係論については,以前ブログに連載したものの途絶した「かかわりあいの政治学」を違うかたちで完結させることが,当初の執筆企図にありました.

結果的には,その試みは失敗に終わったと思います.色々と模索はしてみたものの,思うようにはまとまりませんでした.

とはいえ,模索の過程が現われている散らかった駄文であればこそ,何か拾い物があるやもしれません.ご関心の向きにはご笑覧頂ければ幸いです.また,門外漢ながら法学的議論を大幅に扱っておりますので,専門家の方から誤りのご指摘など頂けると嬉しいです.

なお,この論文には一般的な意味で「政治理論」的な議論はほとんど出てきませんので,あしからずご了承ください.われながら,かなり謎な論文に仕上がっています.

目次と抜粋を以下に載せておきます.しばらくするとリポジトリでも公開されることと思いますので,その際には改めて告知いたします.

  • 目次
    • 1. 問題の所在――権利の言説と関係の概念
    • 2. 関係とは何か――意義・定義・類型
    • 3. 関係性と規範――法的権利義務の諸相から
      • 3. 1. 人格
      • 3. 2. 所有
      • 3. 3. 時効
      • 3. 4. 相続
      • 3. 5. 親族
      • 3. 6. 責任
    • 4. 制度の周縁――関係の言説は機能するか


  • 抜粋
 もっとも、意思決定に参与すべき当事者の把握が、本人体験性や関係によらずニーズ概念から一元的に為しうるとの立場から、当事者性概念(ひいては当事者概念)の分析上の意義が解体されるなら、紛争状況に分布する多様なニーズや、より広範な「利害関心interest」の比較衡量に基づいて自己決定権の絶対性も否定可能になるはずであり、そこでは関係のような曖昧な語を用いる必要はなくなる。「人工妊娠中絶や終末期医療をめぐる意思決定過程においては、家族や医療従事者その他のニーズないし利害関心も考慮されるべきである」などと述べればよいからである。また、意思決定過程において各主体の利害関心がどのように反映されているかを経験的に分析するためには、「権力power」概念を利用することが可能である。日常語としての関係から権力概念に還元しうる部分をも除くとすれば、なお残余の部分がありうるかは、ますます頼りない。
 したがって関係概念の分析は、同概念の意味内容に利害関心や権力には還元しきれない部分が存在し、かつそれが意思決定過程の分析において無視できない固有の意義を持つことを解明しながら進められる必要がある。そこで以下ではまず、デイヴィッド・ヒュームの考察を手がかりに関係概念固有の意味内容を見出し、さらに当事者研究における「環状島モデル」を参照することを通じて、この関係が意思決定過程において利害関心や権力に劣らない分析上の意義を有することを示す。その上で、これを新たに「関係性connection」概念として定式化・類型化することを図る(第2節)。次に人格、所有、時効、相続、親族、責任の六項目にわたって具体的法制度の存立根拠を検討しながら、そこにおいて関係性が重要な機能を果たしていることを明らかにする(第3節)。法的権利義務の存立において関係性が占める地位についての検討成果は、制度一般の存立をめぐる考察へと援用されることで、若干の理論的含意を導くであろう。それらを踏まえ、「関係の言説」が権利の言説に並立して用いられる可能性へのささやかな展望を行って、稿を閉じたい(第4節)。

※追記(10/6):リポジトリにて公開されました.

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